2.木の家に住むメリット
木の家のメリットで、まず第一に挙げられるのがその抜群の吸湿性だ。日本は、夏になると高温多湿の、ほとんど亜熱帯のような気候になるかと思えば、冬にはからからに乾燥してしまう。だから、夏には除湿器、冬には加湿器という全く反対の機能の製品を必要としている。エアコンで、除湿ばかりか、加湿まで行えるのは現状ではわずかしかない。ある実験では、ビニールクロスを張ったミニハウスの湿度が、夜間には90%もの高湿になるのに対し、昼間は25%まで乾ききる。同じ季節でも、外部の温度の差によって、湿度がここまで変動するのである。木材板を張ったテストでは、温度に関わりなくほぼ55%の湿度をキープしてくれる。湿度の適正範囲は、40%〜70%といわれている。ほぼ、そのど真ん中の湿度をキープしてくれるわけである。つまりは、加湿器も除湿器もいらないのである。
木の持つこうした調湿性は諸刃の剣である。こうやって、水分を吸収したりはいたりできるおかげで、木は反ったり、曲がったりする。これが木が嫌われる理由である。しかし、事前に乾燥をしっかり行った木材では、こうした反りや曲がりは最小限に抑えられている。さらに集成材では、そうした変形はさらに小さくなっている。
もうひとつのメリットは、熱伝導率の悪さである。悪さを自慢にしてどうする、といわれると困るので、断熱性能の高さと言い換えようか。熱伝導率は、水を1とした場合、木は0.4、コンクリートは2.4、花崗岩、6.6、鉄にいたっては106となっている。つまり、鉄の1/200以下なのである。アルミなども熱伝導率が高く、窓枠に向いていないというのは、以前にも書いたが、木こそ家を作るのに最適な材料ということができるはず。
フローリングの素晴らしさも、特筆ものだ。まず、素足で歩いたときの心地よさ。これは、木材が湿気を瞬時に吸収する能力に起因する。寒い日でも、暑い日でも、その吸湿性のおかげで身体から発散される汗が結露しないのである。さらに、腰や足などにも優しい。自然のたわみで、足をついたときのショックを和らげてくれるのである。ただし、これは本物のフローリングの場合。コンクリートの上に木を敷いたフローリングでは、こうはいかない。
心を癒してくれる香り。木がふんだんに使われている部屋に入ると、ゆったりした気分になる。これは単に、木目や木の色が自然を思い出させてくれるからではない。ヒノキやスギには、α-ピネン、リモネン、ショウノウ、テルペン類の香り成分が含まれており、α-ピネンには文字通り、α波を出現させる効果が大きいといわれている。また、抗菌作用の高さも実証済み。
木の部屋がリラックスを誘うのは、香りばかりではない。目にもやさしいことが科学的にも立証されている。それは木が光を反射するときに、紫外線成分をほとんど吸収してしまうからである。木の肌に感じるやさしさにも理由があったのである。もうひとつ、音響特性にもリラックスの秘密がある。木の部屋では、高周波成分の減衰率が高く、人間にとって心地よい周波数成分を相対的に強めるフィルター効果があるとされている。これらの事柄が総合的に効果を発揮しているのであろうか、ある実験では白壁の部屋と、ヒノキの壁の部屋とでの最高血圧の差が見られることが判明している。もちろん、ヒノキの壁の方が下がっているのはいうまでもない。
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長野県八佐久郡八千穂村にある旧黒沢会館、現在の奥村土牛美術館。大正末期の建築になる木造住宅。建築後80年を経た建物とは思えないほどどっしりとした建物である。 |
最後に木が燃えにくいという話。逆説のようだが、木は鉄よりも炎に強い。ただしこれは、柱などの太い木の場合。木は260度で発火するといわれている。燃えやすい材料である。だが、柱などの太い木の場合は表面が炭化し、酸素の供給がシャットアウトされ、中身は燃え残る。それに対して、鉄やアルミはある程度以上の熱で急激に溶けてしまう。真っ黒になりながらも、燃え残った木の梁にだらりと溶けた鉄材の写真を見たことがある。火の中でも構造を保つには、木の方が有利なのである。それに、火災の発生源は木の壁や、フローリングではない。カーペットであったり、カーテンであったり、家の中には木よりも燃えやすいものがたくさんあるのだ。コンクリートと鉄で囲まれたマンションも火災の被害に遭うし、人口あたりの火事の発生率では東京よりもニューヨークの方が多いともいわれている。木の家が火事に弱い、というのは根拠がないのである。
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