1.家は一生もの?
かつて、家を建てるということは、そのまま国産材で家を建てるということだった。木は高価であったから、丁寧に加工され、丁寧に家が造られた。戦前の木造住居で現存しているものも多いが、現在まで残っているものは、いずれもしっかりした作りで、このまま丁寧に手入れさえしていけば、まだまだ持ちそうなものも少なくない。
戦後、焼け野原になった日本で住宅の建築ラッシュが起こったのはいうまでもない。都市部での急激な需要の増加に、粗悪な材も出回り、粗悪な建築も横行した。高価で、質が均一でない国産材に代わって、輸入材が使われるようになるのが昭和30年代。
昭和30年代後半には、新建材なるものが登場する。石膏ボードや合板を使った、均質で安価な工業製品である。さらに、昭和40年代後半には、日本にもツーバイフォーという工法が入ってくる。木質工法だが、こうした工法に使われる木材はほとんどすべてが外国産材。
戦後に建てられた粗悪な住宅のアラが見え始め、木造住宅はコストが高い割りに、粗悪であるという印象を持った人は、どんどん見栄えのいいツーバイフォー住宅に流れていった。そして、一生の買い物であるはずの住宅が20年から30年で立て替えられるのがなかば常識化し、不動産の取り引きでも、「上ものあり」は解体や解体で生じた「ごみ」を買い主が始末するという意味になってしまった。よほど築浅の建物でない限り資産価値はゼロ、あるいはマイナスと評価されてしまう。
これが、戦後の住宅建築事情を至極単純化した構図である。もちろん、戦前にも粗悪な住宅はあったろうし、戦後にも丁寧に作られた住宅は多い。さらに、ツーバイフォー工法を否定しているわけでもない。
そして、現在。新建材や接着剤に含まれる有害物質によるシックハウス症候群が問題化し、再び木の家に対する関心が高まりつつある。
もちろん、木の家でも材の選び方や作り方次第でシックハウス症候群と無縁とは言い切れないし、ツーバイフォーや新建材だって、該当する薬剤、ホルムアルデヒド、スチレン、フタル酸エステル類などを使わないものを作ればいいのかも知れない。だが、工業化されたものに対する不信感はそう簡単にぬぐいきれないのも事実だ。
人が木の家を、つまり構造や内装に木を使った家を建てたいと思う理由はいくつもあるだろう。温暖化防止に少しでも役立ちたい。日本の林業再生に少しでも協力したい。ヒノキや、スギの木の香りのする家に住みたい、などなど。
木の家は、CO2を固定化する。木は放っておけば腐食し、CO2を吐き出してしまう。だが、家となった木は丁寧に管理されている限り、長ければ100年以上にもわたってCO2を固定化するのである。新たにCO2を吸収するわけではないが、都市が森林化するわけである。だが、そのためには国産材、しかも近くの山の木で家を作るのが最良の選択である。まずは、木の家のメリットから紹介していこう。
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長野県中込にある旧中込学校。旧中込学校は1875年(明治8年)に完成した。木造洋風建築による小学校であり、1969年(昭和44年)に重要文化財に、その1ヶ月後に国史跡に指定されたている。当時、岩倉訪米使節団に随行し、米国にて建築学などを学んで帰国した下中込出身の建築家、市川代治郎が建築設計を行っている。磨き込まれたフロアーは、今でも十分に使えそうである。 |
「東京の木で家を造る会」の家、下北沢N邸。森の中にあった不思議なこぶを持つ木を柱として組み込んでいる。木の香りが漂ってきそうな内部である。 |
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