間伐

第1回 林業危機からの脱出 1/3 

1.なぜ間伐が必要なのか?

人工林では、一定面積内に非常に多くの本数の苗木を植え、数年ごとに間伐をくり返し、木の成長にあわせてその都度適正本数を保つように調整している。その間伐ができなくなっている。林業のことをよく知らない人の頭に浮かんでくるのはこんな疑問である。そもそもたくさん苗木を植えるから、間伐しなくてはならない。だとしたら、最初から30年後とか50年後の適正本数だけ植えればいいではないか、という疑問である。私も最初はそう思った。だが、当然のことながら、そんな簡単な解決策があるのならとっくの昔に実行しているはず。杉や檜、松などの針葉樹は密集して植えることによりまっすぐ育つ。材として商品価値を持たせるためには、まっすぐな材が望ましいのである。まばらに植えられた杉や檜は下の方が太く、先端に行くに従って細くなる。木としては健全な成長ともいえるのだが、材としての商品価値は下がってしまう。

図02
最初から間隔をあけて植林すれば間伐の必要はないが、木はまっすぐに育たず、商品価値はなくなってしまう

というわけで、日本の林業の主役といえる杉では、1haあたりに3000本もの苗木が植えられる。この本数が果たして本当に適正なのかどうかは、また別のところで考えるが、これが最終的には500〜600本になる。約4/5は間伐しなくてはならないのである。間伐といっても、一定年数を経た間伐材は主伐材に準じる商品価値を持つものもあるが、しばらくは何の利益も生まない除伐の時期が続く。

ここで、杉の人工林をどのように作っていくのかを見ていこう。

まず、植林。だが、この前に行わなくてはならないことがある。地ごしらえという作業である。地面を覆っている枝や葉を取り除く作業である。

3〜4年の苗木を1haに2000本〜3000本という単位で植えていく。

苗木を植えてから5〜7年間は、下刈りという作業が続く。まだ競争力のない杉の成長を阻害するツル植物や下草、広葉樹などを排除するわけである。7年を過ぎてもツル植物の排除は引き続き行われる。

10年を過ぎると枝打ちという作業が必要になる。これは、木の下の方にある枝を取り払う作業。木をまっすぐ成長させるためと、節を残さないために行われる作業だが、むやみやたらに行えば木の成長力を阻害することにもなるし、失敗すると木の皮がはげたりもする。熟練を要する作業である。木の成長にしたがって、裾枝打ち、背丈打ち、梯子打ちと次第に高い枝を落としていく。これが、30年生近くまで計5回ほど行われる。これを数千本、数万本単位で行わなくてはならないのである。林業がいかに人力を要求する仕事か。これだけでも推察できるのではないだろうか。

枝打ち用の鉈とのこぎり類
枝打ち用の鉈とのこぎり類
枝打ち用の鉈とのこぎり類
枝打ち用の鉈とのこぎり類。成長してくると梯子に登り、身体をロープでしばって枝打ちを行う。山の作業は常に危険がつきまとう。
枝打ち用の鉈とのこぎり類
枝打ちの行われていない杉の木。民家の庭を開放した公園に生えている杉なので、枝打ちなどの手入れがされていない。杉とは本来これほどにも枝を付ける木なのである。

次がいよいよ間伐。8〜10年頃から、育ちの悪い木、枯れかかった木、あるいは育林木、つまり育てようとしている木のじゃまになる広葉樹などを伐採していく。除伐で伐採された木は、かつては薪などに使われたのだが、現在ではほとんど価値のないものになっている。バイオマスエネルギーなどでの活用が待たれる。

間伐は、その後も5年おき程度に実施し、その都度10〜25%が伐採される。10年〜13年目くらいまでの間伐は切り捨て間伐と呼ばれ、除伐同様切った木材は捨てられるしかない。15年くらいになると、間伐材でも商品価値を持つようになる。土地の地味や日当たりにもよるが、直径が12〜13cm程度になる。

図02
間伐のイメージ。樹冠が接している状態では、地上に光が届かない。木の成長も遅くなり、年輪幅も均一にならない。適度に間伐を実行することで健全な森林を維持することができ、年輪幅も均一になる。

そうして、40年〜50年、あるいは70年程度で主伐ということになる。もちろん、70年もの間丹誠込めて育てられた木は、高級建材として珍重されるはずなのだが、それすらも原木市場で買いたたかれているのが現状。

100本や200本の木の世話をするだけならそれほど大変そうでもないが、それが何千本、何万本という単位になるのである。気の遠くなる話だ。それほど、手をかけても報われないとしたら、間伐を行う意欲も失せる。あるいは、意欲はあっても予算不足で人手を雇えないというケースもあるだろう。

次は間伐が行われないとどうなるのかを見ていこう。


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