間伐

第1回 林業危機からの脱出 2/3 

2.間伐が行われていない人工林では

木の枝葉が茂っている部分を樹冠というが、この樹冠同士が接してくると、地面に光が届かなくなる。昼でも地面には日が当たらず、当然下生えも生えなくなる。これが間伐が十分に行われていない杉林のイメージだ。下生えがなければ、地表の栄養を含んだ土は雨で流れてしまい、杉の成長も止まってしまう。ひょろひょろと高く伸び、幹が太らないいわゆる線香林ができあがる。ここまでなら、林業は衰退してしまうが、社会問題とまではならない。このままでは日本の林業が衰退、滅亡してしまうというが、外材が安く買えるのなら、それでいいではないかという人がいる。だが、そういう人は想像力があまりにも不足していると言わざるを得ない。

線香林では、杉は根を張る力もなくし、木はひょろひょろだから、ちょっとした風雪害で折れてしまい、大雨が降るたびに根こそぎ流れてしまう。山は水を蓄える力をなくし、大水や山崩れといった災害を引き起こす。

災害が起きるのは山の麓の山村だけに止まらない。上流の山が水を蓄えられなくなれば、大雨の度に下流の町が大水に襲われるということにもなりかねない。緑のダムとしての森林の機能は、この特集の別のところでくわしく紹介していこうと思っているが、森林がいかに水分を吸収するかは、裸地の約3倍、草地の約2倍といわれている。さらに、森(日本中の森林)の持つ機能を貨幣価値に換算(つまり、自然物が果たしている役割を人間が人工的なダムや浄水場で代用するとしたらいったいいくらかかるのか、という試算)してみると、洪水の緩和だけでも年間6.5兆円、水資源貯留だけで、8.7兆円、表層崩壊防止で8.4兆円、水質浄化で14.6兆円もの評価額になる。つまり、山林が行ってくれていることを人力で実現するのはほぼ不可能ということである。これに表面浸食防止の28.3兆円を足すと66.5兆円にも達する。単純に計算すると、もしも日本の人工林の内10%が間伐が行われないことで森林としての機能を失ったら、年間に6.6兆円の損失ということになるのである。

図03
森林は裸地の約3倍、草地の約2倍もの水分を吸収してくれる巨大なスポンジだ

さらに、そうした状態が何年、何十年も続けば地表の養分は完膚無きまでに流れ去ってしまい、再生しようとしても莫大な人力や費用が必要になる。被害はさらに広がっていく。剥き出しになった山肌からは落石が絶えず、雨が降るたびに泥流が川に注ぎ込み、それは海に至って養殖漁業を壊滅させる。

温暖多雨な日本では、アスファルトの上にまで草が茂る。放って置いても緑は再生すると信じている人もいるかもしれないが、山林から木がなくなり、山の地表が浸食されれば谷は土砂で埋められてしまい、日本中が荒涼とした大地に覆われるといったイメージさえ浮かんでくる。悲観的すぎるだろうか? 緑豊かな日本の大地は、文字通り我らの先祖により守られてきたことを再認識すべき時が来ているのだと思う。


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