間伐

エピローグ ターニングポイント

間伐というキーワードを通して、日本の林業を考えてきたこの特集。日本の林業が抱えている問題、課題が多少なりとも明確になってきたように思えるのだが、いかがだろう。

ある学者が、その著書の中で森林保護をセンチメンタルな自然保護活動の産物としてしか捉えていないような記述に出会ったことがある。その著者は、森林、いや緑が一切無くなっても生活には差し支えないと豪語していた。ものを知らないというのは悲しいことだが、そういう人間が大学で人を教える身分で、しかも著書も数冊あるという事実に、そら恐ろしいものを感じる(その本があまり注目を浴びていないことがせめてもの救いではある)。だが、この著者の意見は極端なものであるにしても、こうした意見が教養ある人の口から出てくる、というところに実は大きな問題がある。つまり、都会に住む人間にとって、森林は縁遠く、その恩恵云々といわれてもぴんと来ない。件の学者ほどはっきりものを言わないだけで、森林など・・・と思っている人はかなりの数に及ぶのだろう。

日本列島の67%という面積を覆う森林がなければ、日本は文字通りの意味で現在の姿を保っていることすら不可能である。森林が豊かでなければ、農業も、漁業もうまくいかなくなるし、洪水や山崩れが頻発し、日本は壊滅するだろう。森林の持つ力を、人の手で、機械の力で置き換えるというのは、理論的には可能かも知れないが、規模の点から言っても、予算の点からいっても不可能である。

そうした恩恵のさらにその上に、20世紀後半の生活を支えていた石油が枯渇していくという時代に、木質バイオマスが果たす役割は日増しに重大なものになっていくはずである。日本の森林が抱える問題は、都会の人にとっても、重大なものになっていくはず。取り返しのつかないポイントに至る前に、再生への方策を考え、それを実行に移していかなかくてはならない。

日本は、緑の列島である。他の資源には、ほとんど恵まれていないが、森林だけは豊富である。しかも、日本の技術力は世界有数の優秀さを誇っている。その緑の資源と知力と技術を結びあわせれば、石油資源なきあとの、新しい生活、文化を創り上げることもできるはずだ。そして、日本はそうした技術の恩恵を自国で享受するだけでなく、世界中に広めていく責任も担っていると思われる。ポスト化石燃料の時代がくれば、森林の重要性が認識されるのは目に見えている。そうなる前に、日本の森林が疲弊していてはお話にならない。

日本の森林が豊かさを取り戻すか、手が付けられないほど疲弊するか。今、この瞬間こそがターニングポイントなのである。手をこまねいている、時間の猶予はないように思われる。

21世紀の森林の問題を考える本

『近くの山の器で家をつくる運動宣言』緑の列島ネットワーク

農文協刊 952円+税

近くの山の木で家をつくる運動のバイブル。同会への入会申し込みもできるはがきも付属している。

『緑のダム宣言 森と水を守る人びとがジャンルを超えて動き出した』緑のダム準備委員会編

マルモ出版刊 1500円+税

文字通り、森林の緑のダムとしての機能とそれを守るための活動を紹介した本。

『地球環境と森林』熊崎実著

林業改良普及双書

森林問題を地球規模で概説した本だが、コンパクトにまとまっているのに、中身は充実。多くの人に読んでもらいたい名著。購入は、http://www.ringyou.or.jp/で。


目次へもどる▲

index